知のフィールドワーク 20 (スキージャーナル1996.9月号)
姓名”判断”
アトランタ・オリンピックが終わった暑い日の夜、なぜか急に国際技術選のVTRを見たくなった。上位選手のすばらしい滑りにあらためて感心させられたが、解説を聞いておやっと思った。「今のベルントの滑りは……」とか「エゴン選手のロングタ−ンは……」とか、なぜか姓名の名、つまりファーストネームに”選手”とついているのだ。これは外国人選手だけで日本選手には”カズキ選手”とか”シンゴ選手”という言い方はしていない。”何々選手”というときは、たいてい”姓”で呼ぶはずである。(もっともイチロー選手という例外もあるが…)おそらく親しみを込めたつもりなのか、名字か名前か外国人なのであまり意識しなかったのか……。

オリンピックの実況放送でも通常は、姓で呼んでいるが、なぜか超有名選手と中国や韓国の選手は、フルネームで呼んでいる。100分の1秒を争う実況では「ジョンソン!でた!」とか「ルイス、やった!」と言っているが、それ以外ではほとんど「マイケル・ジョンソン」とか「カール・ルイス」と呼んでいることが多い。もっともマイケル・ジョンソンはマイケル・ジョ−ダン、マイケル・ジャクソン、ベン・ジョンソン、そしてスキー界でもメダルを取ったビル・ジョンソンなんていう似た名前がやたらあって、マイケルやジョンソンだけではいったい誰なのかわからなくなってしまうからなのかもしれない。名前のイメージというものも何となくあって、たとえば”フランツ”というのにあまりダサいやつはいない。フランツ・クランマ−、フランツ・ラウタ−、フランツ・ハインツァー、フランツ・ベッケンハウアー…もちろん本物の”ガイザ−”にもフランツというのがいたが、なぜか皇帝とか帝王といった雰囲気の人が多いようだ。

話を戻して、名字で呼ぶか、名前で呼ぶかだが、もちろんファートネームを呼ぶということはそれだけ親しい、自分との距離が近いことを意味する。お互い通訳なしでは大した話もできないくせに「ロンとヤス」とか「ビルとリュウ」なんて呼び合っている偉い人もいるが、自分のまわりのスキーヤーではほとんどファーストネームのみが多い。ベルント、リッチ−、ボーヤン、ユーリ等々。本人には”名”だが、他の人の前では”姓”というのが、インゲマル、ユーレ(ユーリとふたりいると、どうしてもコシールと呼んでしまう)あたり。そしてちょっと顔色を見て「何とかファーストネームで呼べるかな」というのが、アルベルトとマーク(もちろん誰のことかわかると思うが…)。そういえば自宅に電話する時は「マルティンいますか?」というのに、ブンデスのみんなの前では「グッギー」と呼んでいるマルティン・グガニックというのもいる。これは日本でもワタナベさんを”ナベちゃん”と呼ぶのと似た感覚で、本人もこの使い分けを好んでいるようだ。

来年のワールドカップや国際技術選で、そしてオリンピックで、ぜひ現場に応援にいって外国人選手に思いきりファーストネームで声援を送って下さい!そうすれば彼らとの距離がずっと近いものになるはずです。

P.S そういえば、女子選手の名前が出てこなかったようだが、アニタ、クリスタ、ミハエラ、マティア、フランチスカ、イレーナ、レギーナ、トラウドル、シルビア、カチューシャ…。もちろん女子選手はみんな思いきり親しみ込めて、ファーストネームでしか呼びません!

田和夫
1953年生まれ。現在の日本のスキー界でもっともドイツ語に堪能で、その活動は単に「通訳」という範疇を超えている。言葉だけでなく、心も拾い上げる貴重にして希有なタレントの持主